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音楽の森をクロカンでゆく
−湯畑−
我々はまず、草津に向かった。湯畑、という温泉の湧き出ているところを見物する。
そこは、トレビの泉のように(行ったことはないが・・・・)街の中心に温泉が、とうとうと湧き出ていて、その中には、やっぱりたくさんの5円玉や1円玉が入っている。
(日本人は、草津であろうが、ディズニーランドの池の中であろうが、水の溜まっている所にはお金を投げ入れて健康を祈らずにはいられないのだ)
その周辺では、浴衣を着たおとっさんおっかさん達がふところ手をしてそぞろ歩き、無料で入れる温泉を、はしごしている。そして、その傍らには、おいしい焼鳥屋の屋台があり、生ビールまで飲めるという、まさに、日本人的ごくらく空間が凝縮された所が、湯畑なのである。
−草津の人は気前がいい!−
以前、草津に来たことがある土井君が、にやにやしながら言う。
「じゃ、昼食は温泉饅頭とお茶で」
「?」
と、思っていると、ある店の前で人だかりがしている。近づくと、温泉饅頭とお茶を渡された。
「さあ! 食べてって! 食べてってね!」
それも、試食コーナーなどにありがちな1/4個なんてセコイものではなく、蒸したてのホカホカをまるまる一個である。ふはふはいいながら食べる。
そこから10メートルほど行くと、また別の饅頭屋さんが、
「ほれ! 食べてけ食べてけ! できたてだからね!」
と、通行人全てにお饅頭とお茶を手渡している。
きっと、池袋にいるティッシュペーパー配りの兄ちゃんでも、このおじちゃんにはかなうまい。
途中、
「まずかったらお金は返します」
という看板のある「竹ちゃんラーメン」を発見する。
あやしそうな店に対する、土井君のアンテナはするどい。北軽井沢に来る途中にも、土井君がかねてから目をつけていた「ルート146」という店に寄った。
「食堂・喫茶・民宿・カラオケ」
という看板が出ていて、見るからにあやしいオーラをはなっている。
おそるおそる入っていくと、気さくそうなおじさんが、
「お客さんにたくあんでも出してやんな」
と、にこにこして言う。
店内を見回すと、ご主人の手製の民芸品が所狭しと並んでいる。昔なつかし、プロレスラーのブッチャーと一緒に撮った写真もあった。
おじさんもおばさんもいい人で、いろんな話しを聞かせてくれた。家族で、食堂兼、民宿兼、不動産屋をやっているそうだ。食べきれないほど山盛りのご飯が出る上に、安い、お代わり自由とは、草津の人に負けず、気前がいい。
さて、「竹ちゃんラーメン」は当たりだろうか?
私たちが階段の下で迷っていると、店主の竹ちゃんが顔を出した。
「おいしいよ。まずかったら、お金はいただきませんから」
その声につられて、ぞろぞろと入ってゆく。
たしかに、鰹だしのさっぱりした味でおいしかった。すでに、温泉饅頭2個を摂取したお腹にも、すっと入っていく。
その後は片岡鶴太郎美術館に行く。プロボクサー・コメディアン・俳優といろんな遍歴をもつ鶴太郎さんだが、今は画家というイメージが一番強い。私は、たまたま東京で、鶴太郎さんの個展に行ったことがあり、それ以来、彼の絵が大好きなのだ。
鶴太郎さんの絵や文は、なんだか、無添加の味噌で作ったみそ汁みたいな感じがする。気取ってなくて、心で感じる暖かさと味わい深さがある。描いてあるのは、魚や道端に咲いていそうな花など、身近な物ばかり。でも、秋刀魚は虹色になり、花や実は、複雑な、明るい色で色づけられて、また、別の生命を持って生まれてきたような絵なのだ。
−音楽の森で雪ウサギになる−
今回のメイン・音楽の森に向かう。草津のネイチャーセンターで、自然観察員の方が解説をしながら、案内してくれるというので、参加させてもらう。
ネイチャーセンターでクロスカントリースキーという普通のスキー板より短くで軽いスキーを借りた。スキーと言えば、ゲレンデスキーの人たちは、やたら派手なスキーウェアとサングラスでばしっとキメているが、私たちのスキーは、登山の延長のスキーなので、ゴアテックスの合羽とか、軍手などが幅を効かせている。格好なんかはどうでもいいのだ。
クロカンは、なだらかな所をゆくので、はじめての人でもなじみやすいと思う。ゲレンデスキーと違って、普通は入れない所を、クロカンやスノーシューで入ってゆくというのは、どちらかというと、探検に近い気持ちがする。
なんといっても素晴らしいのは、山に囲まれた、誰の足跡もない白い雪の上をさくさくと踏みしめてゆく時の爽快さである。周りを見渡しても、人工物は何も見えない。空も風も澄み切っていて、日常生活のささいなことで埋まっていた心の中のゴミが、全部空気の中に解けていくような気分。
やっぱり、私には自然が必要なんだなー、と体で思い出した気持ちがした。
途中、解説員のおじさんが、山の名前や、あじさいのような花の名前を教えてくれる。春になると、タラの芽なども採れるそうだ。鹿の足跡や、木の皮を食べた後など、冬の森にも、たくさんの動物が生きている。
「これは、何か大型動物の足跡ですかね?」
「それは、人間です。かんじきで誰か入ったのですね」
冬の森には人間の痕跡もあった。雪原の中に誰が作ったのか、雪だるまがポツンと立っていたり、点々と足跡があったり。でも、ゴミなどは一切ない。
体一つで自然の中におじゃまして、一緒に遊んでくる。こういう自然との関わり方ができる生活はいいなぁ、と思う。
−日本のトレビの泉を探索する!−
雪の中の探索を終えた私たちは、日本のトレビの泉、草津の湯畑にもどってきた。
源頼朝が、建久四年(1193)に発見したと言われている「白旗の湯」に入る。もちろん無料である。中はきれいで、よく整備されていた。
やぐらのような高い天井から、陽が差し込み、お湯の中で体の疲れがとけていく。やっぱり1日の締めくくりは温泉である。
饅頭屋にしても、無料温泉にしても、草津は気前のいい街だ! とつくづく思う。さすが、日本を代表する温泉場である。
そして、身も心もふにゃふにゃになったところで、さらに、1日の締めくくりの締めくくりは、皆との乾杯なのである。
湯畑の前の焼き鳥屋でブツを調達して、みんなで打ち上げをした。
この焼き鳥がうまいのなんの。特にレバーはまろやかな味で、今まで食べた中で一番おいしいレバーだった。
参加された皆さん、本当にありがとうございました。
また、一緒に旅をしましょうね。
【栗原智子】
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